ビワの黄色い実が成った
 えっ、ビワ?。
ビワって、どんなのだっけ?。
オレは二十歳のころまで、ビワというものをよく知らなかった。
言葉は知っていたけど、どんな果実なのか、よくわからなかった。

 琵琶法師が持っている「びわ」という楽器みたいなものか?。
形は似ているようだが…。
ついでながら、ビワとイチジクの区別も、オレは長いこと知らなかった。

 自分の家にも植えて無かったしな。
オレが育った環境では、身近な果物ではなかったためだろう。
しばらくしてから、園芸本に載っていたビワの写真を見て、それで近所でビワの木を見て、ああ、あれかと、ようやく気付いた次第。

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これがビワ

 近所にはよくある木じゃねえか。
これでようやく、ビワとイチジクを区別できるようになった。
形がちょっとだけ、イチジクの実と似ているが、しかし、果物としては全然違うものだ。

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これはイチジク

ビワは北関東で栽培できる?
 しかし、本にはここら茨城県では不向きだと書いてあるぞ。
でも、近所にゃビワは成っているじゃねーか。
おっかしーなー、この不一致はどう説明するんだあ〜。

 そもそも近所の木を観察すると、結構たくさん成っている。
ウラヤマシイ。
本の方が間違っているんじゃねえか?。
ビワというのは暖地向きだそうだが、木そのものは寒さにはまあまあ強い方らしい。

 といっても、常緑樹として照葉樹林というんだったか、カシの木だったか、そういう木が生えている範囲なら大丈夫らしい。
常緑樹のユズだって、オレんちの近所では生えているからな。
一応の目安としては、マイナス十度以下になると、ビワやユズの栽培は無理らしい。

 オレの所ではマイナス十度以下まで下がることはほとんどないから、まあ一応は大丈夫の範囲らしい。
ビワでとくに問題なのは、冬に開花するそうで、これが大きく関係するらしい。
マイナス七度以下になると、つぼみが枯れてしまうという。

 マイナス七度か。
オレんちのあたりでは、時々これくらい冷えるなあ。
数回ぐらい冷えても、つぼみが全滅するわけではないようだがな。
だから、オレの近所でビワは成ることは成るようだ。

 商業流通として経済的な栽培には北関東は不向き、という意味で、本の記述は書いてあったらしい。
冬になるたびに寒害にびくびくしていたんでは、落ち着いてビワの販売・流通なんかできやしねえもんな。
でも、オレは趣味の栽培だから、たまに収穫皆無の年があっても、一応がまんできる。
つまり、オレにもビワ栽培はできそうだ。

ビワのタネと接ぎ木
 店でビワの果実を買って、食べたあとに残ったタネをまくと簡単に芽が出る。
近所のビワの木には、タネをまいて育ったものが多いらしい。
タネから育てるというのは、オレにとっては、全く予想外だったな。

 現在の果樹は、タネから育てたままの木というのはほとんどなくて、接ぎ木して育てたものが主流だからだ。
なお、タネから育てた木は、園芸本では、実生(みしょう)と呼ぶことが多い。
ここで、果物のタネ植えと接ぎ木について、ちょいと詳しく述べてみよう。

 果樹というのは、本来はタネから蒔いて育てても、同じ果実を成る性質を持っていた。
野生のクリとか、ドングリがそうだな。
ドングリから芽が出て、それがまたドングリの実を成らせても、同じようなドングリが成る。

 カエルの子はカエル、というか、あいかわらず似たようなものだが、だが、まったく同じではなく、少しずつ違っている。
少しずつ違うというのがポイントで、似ているとはいえ、やや大きめの果実とか、ちょっとだけうまい木が生えることがある。
ここで、このタネをとって、再び蒔いて育てて、良い性質の実がなるものを選んで、それを再び蒔いて育てて、良いものを選び、これをまた蒔いて…、という具合に何年も(何十年も?)くり返すと、良い性質で固定化されるらしい。

 イネなら一年で収穫できるが、果樹だと実がなるまでに十年ぐらいかかったりして、固定化をやっていると百年以上かかりそうなためか、果樹ではタネの選抜・固定化とかは省略して、接ぎ木することが一般的になった。

 タネから伸ばした苗木のアタマをちょんぎり、良い性質の実がなる木の芽をくっつけてそのまま育てるという、タネから生まれた根っこ部分は、当て馬というかカッコウの子育てというか、寄生生命体に乗っ取られた人間?というか、接ぎ木部分を育てるためだけの奉仕人生(木生?)というか、そういう存在になっている。

品種改良はどうやる?
 品種改良についても、ここでついでに述べてしまおう。
果樹では優秀な木から切り出した枝(芽)を接ぎ木して広めている。
で、「優秀な木」を作り出す品種改良だが、これは優秀な木同士をかけ合わせて(交配)、そのタネをまいて育てて、良い実が成ったものを選抜する方法が主流だ。

 交配と選抜をくり返すわけだが、ただし問題があって、親の木が優秀であっても、平凡な子供ばっかりが生まれてしまうことだ。
優秀な親木といっても、性質が固定化されているわけじゃなくて、たまたま優秀な星の下で生まれただけで、うまいリンゴやナシのタネをまいても、先祖帰りといって元の野生種みたいな果実が成ってしまう。

 ちなみに、柑橘類やブドウは、野生の原種まで極端には劣化しないようだが、親の木の品質ほどではない果実が成ることが多いらしい。
では、果樹の品種改良はどうやるかというと、まぐれで生まれた(この言い方はトゲがあるな)優秀な親木同士をかけ合わせてタネをとり、生まれた苗木は大部分は野生児みたいなのばっかりが生まれるが、ごくまれの確率で、優秀×優秀=超優秀という、まぐれのまぐれみたいなヤツが生まれることがある。

 これで、品種改良のいっちょあがりというわけだ。
で、これをさらに品種改良するには、このようにごくまれに生まれた超優秀と超優秀のヤツ同士をかけあわせて、ごくごくまれの確率の、まぐれのまぐれのまぐれの超超優秀なヤツを狙うという状態になる。
やればやるほどキツクて難しくなってしまうというのが現状の品種改良だ。

ビワの品種はどれがいいか?
 で、ビワだ。
これは品種改良が進んでいないというか、する必要もないくらいに元々のビワ原種が良かったというか、タネから育てても、ある程度良い果実が採れることがわかっている。
でもよ、実生で、それなりに良い果実が成ればいいけど、良くないのが成る可能性もあるわけだぜ。

 なんか不安だなー。
それに、第一、タネからまいた果樹というのは、成り出すのが遅い傾向があるしな。
五年以内で成るならマシだが、十年経っても成らなかったら困る。
やっぱり、オレは接ぎ木されたビワ苗木を買うことにしよう。

 で、通信販売で買うことにしたが、ビワの品種はどういうものがいいか本で調べてみた。
ビワの品種は、二つの品種でほとんどを占めていることがわかった。
茂木(もぎ)ビワと田中ビワだ。

 茂木ビワは、甘味が強いが寒さに弱く、田中ビワは、酸味が強いが寒さには比較的強い、という。
他にもビワ品種はないかと思って調べてみたが、なにしろ北関東に住むオレとしては、寒さに弱い品種を植えるわけにはいかない。

 すると、ビワ品種のなかには、大房(おおぶさ)といって、寒さには最も強いビワがあることがわかった。
この大房ビワが欲しかったが、果樹カタログにはまったく載っていなかった。
仕方ないなー。
オレはあきらめて田中ビワを買うことにした。

ビワ栽培が予想外の苦労
 で、栽培が始まったが、これが苦労の連続の極み。
苦労話はあまりしたくないんだが、とりあえず振り返って述べてみよう。

 最初に買ったのは、通信販売で買った田中ビワの苗木一本。
ビワは半日陰にも耐えられる、と本に書いてあったので、日影気味の場所に植えた。
が、日当たりが悪すぎたせいか、甚だ発育不調になって、冬に枯れてしまった。
あっけない。

 やりなおしということで、通信販売で再び買うことにした。
今度は田中ビワを二本買った。
今度は、前回よりも多少マシな日当たりの場所と半日陰の場所に植えた。
だが、両方とも雑草に埋もれてしまい、発育不調となってしまった。

 オレの管理が足りないせいだろうけどな。
雑草取りはツライからしょうがねえだろ、と言い訳しても、苗木の発育が良くなるわけがない。
発育不調は続いて、虫の害まで加わってヒドイ状態。

 仕方ないので、とくにヒドイ状態の方は伐採して、ビワは一本だけとなった。
しかし、この一本だけでは今後は危なっかしいと思った。
数でカバーしようと思い、新しく二本追加購入した。
これで、計三本になった。

 それにしても、ビワの苗木は値段が高い。
一本千五百円くらいで、他の果樹苗木の倍ぐらいもする。
しかも、ビワの苗木の高さは、苗木売り場でも、五十センチ以下の低いものが多い。

雑草に埋もれたビワ
 順調に育てばいいのだが、他の果樹はすぐに高く伸びて周囲の雑草から抜け出すというのに、あいにく、ビワは雑草に埋もれて発育不調気味。
なにしろ苗木自体が小さいうえに、雑草の方が勢いがありすぎる。
なんだかー、再び危なっかしいと思えてきた。

  それにビワ三本は多すぎると思ったので、最も日陰にあった一本を伐採することにした。
よって、一本減じて二本となったが。
だが、日当たりは両方とも良い。
よし、これでゴー、だ。

 ビワ二本は、ようやく順調に育っているように見えた。
オレは草刈りを何度もしていたよ。
エンジン付き刈り払い機で、バッサバッサと刈り取ったが、だが、一ヵ月もすると元通りのようになってしまうんだもんなー。

 雑草は、根っこから抜き取ればいいんだろうけど、暑いときにいちいち草取りなんかやってらんねえよ。
第一、果樹畑の面積は広いから、全部なんてとてもムリムリ。
野菜の畑だったら、耕すことによって除草も兼ねるが、果樹畑で耕したら果樹の根っこまで切ってしまう。
雑草対策にはホトホト困り果てた。

 なかなか管理しきれん。
とかなんとかかんとか思っているうちに、夏が過ぎたある日、ビワ苗木二本のうち、片方の一本が雑草に埋もれて枯れているのを発見した!。
あれれ、こうなるとわかっていれば、さきほどの一本は切らなかったのによー。
結局、ビワは残り一本となってしまった。

葉っぱにトラブルが!
 ビワの果実は、まだ一個も収穫できていないぞ。
初めてビワを植えてから、もう五年以上たっているが、もう何やっているんだか。
残り一本だけとなってしまったビワだが、これは日当たりが良い場所に植えてあった。

 が、発育が変で、葉っぱがちぢれてしまう。
原因はよくわからんかった。
葉っぱが密集していたから日照不足になると思い、ある年にしびれを切らして、ちぢれ葉を片っ端からむしってみた。

 そしたら、ようやく順調に発育しはじめた。
若葉の段階で、他の葉っぱに押されて曲がってしまったらしい。
むしったのは、一九九八年春のことだ。

 が、今度は葉っぱが密集しなくなったぶんだけ風通しが良くなり、冬になったら、強い北風で葉っぱがちぎれて、だいぶ葉が減ってしまった。
それでも幸い回復し、一応木が高く伸びたことで雑草に埋もれることもなくなった。

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ビワの木の高さは一メートルくらい
1998年7月6日撮影

 これで一段落したけど、ふう〜、疲れた。
ビワは育つのが大変のろいような気がする。
ビワを植えている家庭では、普通はこんなに手間ヒマかかってないと思うけどなー。
オレはメチャクチャ手間どってしまったよ。

 一九九八年の初夏には、かなり順調に伸び始めた。
もっとも、雑草まみれの場所に植えているので、今までは管理が不十分だったと言えなくもない。
でも、ここまで育てば一安心で、雑草よりもビワの方が背が高いので、雑草取りとかは、あまり心配いらない。
あと数年すれば、ビワの実を収穫できるはずだ。

冬に花が咲いた
 ビワの木に花が咲いた。
花すべてが実になるわけではなく、寒さの被害果がありそうだが、二〇〇一年は、花がたくさん着いたから、果実もうまくいきそうだ。
ビワは珍しいことに、冬から春にかけて花が咲く。

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開花したビワ 2001年12月30日撮影

 と、翌年二〇〇二年五月のころには、ビワの木に、小さな果実が、ごちょごちょと多数あった。
シメシメと思いつつ、このままいけばたくさん収穫できるぞ。
でもよ、期待してても収穫できないかもしれないから期待は禁物、今まで一度も収穫できなかったし。

 植えてから、もう十年ぐらいたつ。
前年は初めて実が少し着いたけど、何らかのトラブルでだんだん数が減って、最後に数個だけ熟したようだったが、カラスに食われたのか、結局ひとつも食べられなかった。
まだ収穫のことは考えないでおこう。

ビワが初めて成った
 ビワの果実は五月ごろは産毛に包まれたような形で成長しているようだった。
二〇〇二年六月、黄色く色付きはじめてきたから、それらがかなりギッシリの数で、今回は確実に収穫できることがわかってきた。
ウフ。
何気ないフリをしつつも、心では嬉しい。

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初めて収穫したビワ 2002年6月27日撮影

 家から離れた畑に植えてあるから、カラスの被害が心配だ。
木がでかくなりすぎてアミをかぶせるのもわずらわしい。
適宜収穫して、遅れないように注意するしかない、と、待ち構えていたら、カラスの被害が少々発生してきた。

 オレも、皮やタネを木の周りに食い散らかしながら食べてみる。
全体的にはまだ熟してない、もう少し先か。
食べ方が、まるでカラスの食い散らかしとそっくりである。

 さて、五日後ぐらいか、次に見に行った。
ら、カラスの被害がかなり大きくなっていて、尖ったクチバシで、突っつかれた果実がかなり多い。
んも〜、完熟果が被害に遭っているわけで、今が収穫時だと判断した。
これ以上遅れたらカラスにみんな食われてしまうぞ。

一気に全部収穫
 というわけで、一気に全部収穫することにした。
もう、かなりの収穫量だ。
バケツにかるーく一杯、それ以上か、スーパーの買い物ビニールの袋にも満載して、合計ざっとバケツ二杯分、豊作だね!。
カラスがほじくった被害果実が、全体の二、三割か、でも、それらは含めない。

 正常な果実のみを収穫して、それが、バケツと袋で合計あわせて満杯の収穫。
外観からは無表情に収穫しているように見えたと思うが、理想はニコニコしながら収穫してしまえばいいのだが、それは、もう収穫した瞬間から、今までの持たざる者の気分とは違ってきたのだ。

 今ではビワ果実、こんなにたくさんは、いらねえんだけど、しょうがねえから「我慢」して収穫だな、というあつかましいほど変化した贅沢気分だ。
果実のうち約半分は、近所の知り合いにプレゼントする。

 近所付き合いというわけだが、オレとしては、十年ぐらいの苦労の末に初めて収穫できた。
しかも豊作。
お宅にビワの木ないみたいだから、これいかがです、すごいでしょ、差し上げますよ、という、自己満足みたいなプレゼント差し入れであった。

作者を誉めるメールを送ってくれえ〜!
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