不思議の国のアリス・ファーム
 急げ急げ!、時間に追われて、道の奥(みちのく)の穴に飛び込んだ。
暗闇を抜けるとそこは別世界、北の国へ。

童話 不思議の国のアリス

 路線バスを降りると、あ、いたいた、アリスファーム園主の藤門さんが見えた。
遠くのブルーベリーの間で、草、刈ってる。
ちょうど受付の人が来たので、ラッキー!、入園料八百円の手続きを済ませて、園内に入った。

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 うーん、すがすがしい緑の芝生。
キチンと整えられた清潔なブルーベリー園だ。
さっそくブルーベリーの果実を摘んで食べてみる。

 ん、うすい味で、今年の悪天候のせいかもしれないが、もともと清廉潔白な味かなと思いつつ、食べ続けているうちに気にならなくなった。
ブルーベリーの実が大粒のものは、確かブルークロップだったなー。
これは酸っぱいものと甘いものあり。

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 小粒のものはノースランドらしい。
これはどれも確実に甘い。
パンフレットによると、品種はブルークロップとノースランドが中心で、ウェイマウスもかなり混じっているらしいが、実物の品種の見分けはオレにはよくわからない。

 それにしても、木に成ってる果実の量が、ギッシリでかなりの量だ。
開園初日からだいぶ日が経ってるが(今年の開園は七月二十二日ごろ)、今(八月十四日)がちょうど成熟の最盛期みたいだ。
ブドウの果実のように粒びっしり、熟した果実どっさりで、やったね、オレ、ツイてる。

※補足 二〇〇三年は冷夏で収穫時期が後に押したとのこと。

 藤門さんがひと休みして受付に戻ってきた。
あ!、ちょっとワタシおーつといいます、ファンなんです、あのこれ、本ですが、サインいただけるでしょうか?。
「世界の川を旅する」という本をオレは持ってきていた。
川下り旅行記と写真集を合わせたもので、野田知佑さんと藤門さんの共著による力作だ。

世界の川を旅する

 文章を担当した野田知佑さんのサインはもらったので、写真撮影を担当した藤門さんのサインも欲しいのだ。
藤門さんはマジックを手に取ると、スラスラッとサインを書き入れて完成。
やった、サイン書いてもらっちゃいました、ヨカッタア〜。

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 アリスファームの園主としてもう一人、パートナーの宇土巻子さんの本もオレは持ってきていたが(パートナーというか夫婦別姓)、大阪に出張中とのことでいなかった。

農的生活12か月

 ここアリスファームでは、昨年(二〇〇二年)から、ブルーベリーの摘み取りが夏にできるようになった。
オレにとっては、訪問するのは今回が初めてだ。
緑の芝生を歩きつつ、ブルーベリーを摘んで回って、大きなクリの木の下で、椅子に座って休む。

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 濃い緑色の芝生が整備されていて、白いベンチとテーブルがいい感じ。
今日はたくさんブルーベリーを摘んだことだし(持ち帰りは百グラム容器で二百円、または大型パックで五百グラムまで摘み取り可能)、時間はたっぷりあるので、いったん温泉に行くことにしよう。
持ち帰りブルーベリーの五百グラムの料金を払って(千円)、帰りの路線バスが来るまでは、ここ所在地の赤井川村でいろいろ見物しようっと。

 歩いて向かったが、歩き疲れて村内を迷走したあげく、結局、帰り道にまたアリスファームに摘み取りに入ってみる。
女性客がけっこう来ていて、ニコニコしながら「ここで働かせてー。」と何度も園主の藤門さんに話し掛けてて返答に窮していた。
女性は農作業したがらない人が多いと思っていたが(農家の嫁不足って有名じゃん)、うーむ、ブルーベリーは例外らしい。

 乗用草刈り機みーっけ。
情報によると「乗用草刈り機」というモノは、園内をゴーカートのように走り回って、苦痛の草刈りでさえ快楽に変わる、というアクティブな乗り物らしい。

 ここで、園内の特徴について、述べてみよう。
眺めとして、広い芝生の土地に、堆肥用土を細長く盛り上げて、そこにブルーベリーの苗木を植えてある、という構成になっている。

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 芝といっても高麗芝とは違って、西洋芝というか牧草と同じもので(ケンタッキーブルーグラス)、クローバーも混生している。
堆肥は、木クズおよび家畜糞?や刈った芝草。
木と木の間隔は一メートル、黒い柱の高さは一・五メートル、列と列の間(通路)は二メートル。
冬には、黒い柱が見えなくなるまで雪が積もるという。

 刈り取った芝や雑草などは、ブルーベリーの根元に盛り付けて、そのまま堆肥にしている。
うまいやり方だ。
苗木を一列に植えてあるから、乗用草刈り機の排出口(刈った草を吹き出すところ)を、ブルーベリーの根元に盛り付けながら走るのかな?と想像したが、刈った芝草はまとまった量がウネの上にちゃんと載せられているので、どうも違うようだ。

 あとで聞くことにしよう。
園主の藤門さんは、草刈りから案内、およびお客さんから次々に話し掛けられて引っ張りだこのうえ、受付係の女性がいないときは集金までやるので(つまり一人で全部やる)、とても忙しそうだ。

アリスファーム二日目
 翌朝、再びアリスファームへ出撃。
現地のバス時刻表は改正されていて、朝のバスは出発が五分ほど後にずれるようになっていたので(オレが持っていたデータは古かった)、電車を次の便にしたら、これに遅刻してしまうという大ヘマをやってしまった。
バスは午後まで来ないので、また歩く歩く歩く。

 峠まで歩いたが、ものすごーく歩きくたびれたオレは、ヒッチハイクを初めて試みた。
車はブーブー通り過ぎていって、通り過ぎ去っていく瞬間が、メチャクチャ恥ずかしいうえに気まずい。
みっともないやら、フラれたみたいなサイアクな気がおかしくなったころ、二十台目ぐらいでクルマが止まった。
「歩くのは大変なので本当に助かりました。ありがとうございます」と言いつつ、オレは聞き役にまわった。

 御老人の車で、妻らしき遺影写真が飾ってあり、「中学生のとき、遠足で初めて海を見た。街まで歩いていって、四時間ぐらいかかった。長靴にワラ巻いてな。」
と御老人はいい、つまりだ、この峠道を歩いたことがあるという。

 雪道だし、もちろん帰り道もだ。
ああ、オレは歩くのが大変だからと車に乗せてもらったことを恥ずかしく思った。
今日は八月十五日のお盆なので、御老人は村に帰省するところだった。

 なお、アリスファームは、余市駅方面から冷水峠(ひやみずとうげ)を越えてすぐの所にあるが、ココがアリスファームか?と勘違いする場所が峠に二つあるので、あらかじめ説明しておこう。
一つめは、巨大で外国風の城がある。
見てたまげたが、それはアリスファームでもラブホテルでもなく、ゴルフ場だった。

 アリスファーム羊が丘牧場という施設もあるのだが、これはやや説明しづらい説明が必要だ。
それはかつてのアリスファームで、観光牧場として経営していたころのものだ。
この観光牧場はどんどん発展していったが、創設者である藤門さんや宇土さんにとっては、経営者としてのデスクワークが多くなりすぎたこともあって、全て売却されたのだ。
そして売却した後は、隣村に移転して自宅を新築し、ブルーベリーを中心とした家族経営として再出発となっている。

 売却されたアリスファーム羊ヶ丘牧場は、別の企業体が引き継いで、アリスファームという名前こそ同じく使っているが、家族経営となったアリスファームとは、無関係となっている。
アリスファーム羊ヶ丘牧場では、宿泊や各種体験もできたが、引き継いだ企業体自身による運営が失敗して、昨年(二〇〇二年)、破綻というか閉鎖してしまっている。
残念というか深刻な話だけどな。

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 アリスファームの本はたくさんあって、農場創設の頃の話や、レンガで新築した家での生活について読むことができるものの、観光農場は以上の次第で、新築したレンガ邸での話は私生活のことなので、観光客が遊びに行けるのは夏のブルーベリー園のみ、となっている。

※追記:その後、ホテル・ドロームという宿泊施設の経営も始まった。

つづく

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