いよいよシンポジウム終盤戦
 お次の見学農園へと、バスは出発!。
今度は山の頂上あたりだ。
傾斜地で、ブルーベリーにはわりと条件は良さそう。
さっそくメガホンで解説が始まった。

 ひろーく大規模にやって、従業員を雇用しているという。
ここもまた植栽間隔が狭いが、ブルーベリー園ではもう毎度のことなので、オレとしてもいちいち指摘するのはやめた。

 今回のシンポジウムで、幹の中の導管が痛むというか、強剪定して幹を新しいものに更新する、ということがずいぶん強調されていた。
導管、か。
いったん樹勢が衰弱することがあると、木の中の導管が硬直化してしまうのか、その幹の成長はうまくいかないことが多いわな。

 そんなときの対策のために、大幅に切り詰めて新しい幹を伸ばすことが推奨されていた。
それはオレも一応知ってはいる。
つーか、衰弱したハイブッシュ樹を切り詰めたら、再生するどころか、むしろ、その樹は消滅してしまうだろーが!。

 今まで苦労して何年もかけてきて、それでもふるわない樹を切り詰める、なんてできるかあ?。
発育をうながすため切り詰めればいいといっても、それをやったら今までの育成が全否定になる。
とても受け入れられるものではないだろう。
同じように思った人も多かったようで、白髪の男性が解説に納得できなくて食い下がっていた。
残りの人生を考えたら、激しく同情。

 そのためか、というか、そういう場合、ハイブッシュで育ちが悪いものがあったら、ハイブッシュでも育ちがいいものを台木にして、そこに接ぎ木すればいい、という話になった。
急遽、接ぎ木の実演を始めることになって、人だかり。
同じ悩みを持つ人は多いらしい。

 接ぎ木作業の様子を見ると、技術そのものは普通で、とくに問題や特徴があるわけでもない。
接ぎ木は多数やっているというが、それなら、今年の春にやった接ぎ木が伸びているだろうから、オレとしてはそれを見て確認したいな。
というわけで、どこにあるのか聞いたら、従業員は接ぎ木苗がたくさんあるといっても、その従業員は自分ではやっていないようで、どこにあるのか返答があいまいだ。
周囲の樹はそうだという。

 ふーん、本当?。
接ぎ木なら根元あたりで段差が生じているはずだが、見当たらないな。
さらに観察すると、樹の地表から新たに出ている枝の花と、樹の上部の花が同じだ。
これは接ぎ木してない樹の証拠じゃないか?。
ハイブッシュ樹にハイブッシュを接ぐと、台木と穂木の区別が付きづらいという難点があり、ラビットアイ台なら葉っぱの色が違うのですぐわかるが、ハイブッシュ台だとすごくわかりにくい。

 地表近くから伸びた枝を剪定しても、台木から伸びた枝を見分けて切り除くのが、ちょっと難しい。
特に成長して、接ぎ木の段差部分が消滅した場合だとね。
でも今は開花期。
花のカタチを見れば、見分けできる。
ハイブッシュ台にハイブッシュを接いだことによる見分け困難さについては、オレは過去に懲りた経験があるので、多少の知識を持っていた。

 それに、周囲の樹をよくよく見ると、根元から切り詰めて再生化させるといっても、目の前の樹を見ると、50センチとか1メートルの高さとかで、段差ができているというか、そこで切り詰め剪定して、再度伸びた様子であることが見えた。
元から切り詰めて再生させるといっても、木の根元から切るのはやっぱり、現実にはなかなかできていないんじゃないか?。

 オレが現場の樹を見て指摘すると、その若い従業員は返答に困ったようで、上司?に尋ねに行った。
うーん。
ふつう、農園主なら、即答できるぜ。
なにしろ、今回のシンポジウムは独立自営をやろうとするメンバーだらけであって、植樹や成長管理などを自分で作業して自分で判断して投資する経営者志望?の集まりなので、雇われ従業員の言動はどうしても物足りなく感じてしまう。

 接ぎ木がいいといっても、やるべき本数がべらぼうに多いわりに、やってみるとわかるが身体的な疲れが大きくて、ブルーベリーの接ぎ木更新はなかなか困難なのが現実だ。
強剪定で元から切り詰めといっても、心情的にもこれまた実際にやるのは難しくて、現実にはなかなか困難だ。
言葉で言ってて理解はしていても、現実にはできない。

 それを今回のシンポジウムでは、目前で見るハメになってしまい、もうー。
バスに乗り込んだ中で、オレは隣の人にグチった。
「雇われ従業員はわかってないねー、苦労して最初から立ち上げてきた人なら話も通じ易いんだけどー。」とオレが言っていると、隣に座った男が、声をひそめて、そっとこう言った。

「2代目だからね。」って、それはキツイ言葉なんじゃないかい!。
跡継ぎの息子だって大変だろうし、オレはさっき言ったばかりの自分の言葉を棚にあげてそう思ったが、とはいえ、2代目や従業員の話は、やっぱり弱いといわざるをえない。
ともあれ、バスは次の最後の見学園へと向かう。



 お次は、全く新規で農業を始めたところだ。
休耕田を借りたという。
土盛りして、田んぼを畑に変えたという。
土を運んでくるのは投資はかかるが、休耕田に植えたブルーベリーがよく育たず苦労しているオレとしては、客土することに深く賛成した。

 ここの伸びは良い。
順調ならそれでいいが、園主による解説によると、さらに新たに最近借りた土地は、そこは休耕田のままなので、土盛りというか客土していないので、そっちは伸びが悪いのだという。
ふむふむ、見て確認したいぞ。
やや離れた場所でもあり、あんまりそちらは見学会場としてはふさわしくない生育なのかもしれないが、オレとしては、むしろそちらに見るべき価値がある!。

 と、ずんずん歩いて行って、その現場で観察。
元・田んぼで、木の花には灰色カビ病が出てる。
さっき発育が良く育っていた場所のところでは、この灰色カビ病は発生していない。
他にも今まで見学園で見て来た樹で、良く伸びた樹には灰色カビ病でてなかった。

 発育不振でじりじり育っているようなものは、病気の追い打ちだ。
休耕田そのままの土地は発育やや不振で、休耕田に植えたハイブッシュ樹の典型的症状を示していたので、オレは隣にいた10年以上まえからのブルーベリー栽培のベテランに、ぼそっと「典型的症状ですね」と言った。
そのベテランも同じような土壌で悩みを抱えているはずなので、こっちの圃場にわざわざ見に来ていたのだ。

 改めて評価すると、このへんは、日本でもハイブッシュには屈指の適した土質だ。
そのような最適の土質であっても、田んぼ跡地の土となると、ブルーベリーはこんなにも発育不振になってしまう。
だから、休耕田でのブルーベリーは鬼門というか、要注意、要警戒といえる。
というか、できることなら、避けるべき。
というか、ハイブッシュ挿し木苗なら植えてあっても、他の土地ならば、いずれ潰滅して辞めることまで覚悟しなくちゃならないじゃないか。

 全部が駄目というわけではなく、根元からシュートが多めにでていた樹もあった。
「大丈夫じゃないかな?」とある女性が言った。
その女性は休耕田で栽培しているらしかった。
「全然ダメ」だとオレはつい、キツく答えてしまった。

 根元のシュートの伸びは、そこに埋め込んだピートモスの養分で育っているだけで、樹が伸びれば、また今の成木と同じ症状を起こしてしまうよ。
木を掘り起こしてみれば一目瞭然。
根っこは、ピートには根付いても、周囲の田んぼの土には全く伸びていないはずだ。

 オレの今までの経験からみてもね。
つらい現実だとしか、言いようがない。
オレ一人の気分の落ち込みの問題ではなく、これはブルーベリー園の業界が抱える大問題でもあったのだ。



 今回のブルーベリーシンポジウムは、古くからのブルーベリー産地のためもあって、抱えている問題が浮き彫りになった形になったと思う。
ブルーベリー普及という点では、古い産地ゆえに、もう一段落していて、むしろ、栽培を継続できなくなっている問題がある、というか、問題噴出。

 そもそもブルーベリー普及のために始まったシンポジウムも、今回のシンポジウムで最後になるかも、とオレは思ったくらいだ。
古くからのブルーベリーメンバーと、ヒソヒソと将来を危惧する話をしたが、問題や不満が色濃く出てた。

 現に、過疎地で高齢者が夢をもって取り組んだ農園が、現実の世界で発育不良多発で壊滅した経緯があるだけに、どんなことが起きてきたのか、オレの体験から想像してもツラすぎる。
それにここらあたりは積雪が2mを超えて、古い別荘とかだと、屋根のひさしがへし折られている有様。
どんだけ積雪の圧力が加わったんだか、恐ろしいな。

 とまあ、長野県のブルーベリーといえば、夏の避暑地のさわやか甘酸っぱい果実を大量生産中と、オレはイメージを持っていたんだが、現場はかなりの苦労話で、とあれ、単なる観光客として来るなら、爽やかに楽しむことはできよう。
気を取り直したオレは、雪をかぶった北アルプスの遠景を眺めながら、茨城県への帰途についたのだった。

終わり

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